腹腔鏡下手術について

腹腔鏡下手術について

当クリニックは、主として子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫に悩む患者さんのために、腹腔鏡下手術を一つの選択肢として提供できるクリニックです 患者さんの病気に対し、日本産婦人科腹腔鏡学会技術認定医である院長が、腹腔鏡下手術が有効かどうかを判断し、ご希望であるなら、手術をマネージメントいたします。

手術を行う病院は、当クリニックが提携する新百合ヶ丘総合病院・婦人科低侵襲手術センター(神奈川県川崎市麻生区)で施行させていただいております。当病院は腹腔鏡下手術に十分経験を有する病院です。

総論

“低侵襲で身体にいい手術”として、いまや標準的な手術として確立された腹腔鏡下手術ですが、この手術は開腹術とは違う技術が要求されるため、執刀する医師には十分なトレーニングが必要とされます。

十分なトレーニングをこなしている日本産婦人科腹腔鏡学会技術認定医が手術を行うことにより、この手術の恩恵は十分患者さんに反映されます。 さらに、複数の技術認定医が手術に関われば(執刀医、助手を担当する)さらにその手術の質は高まります。

当クリニック開院当初、院長は、神奈川県、東京都の病院に勤務する複数の技術認定医が、特定の病院に集まり質の高い手術を行う”環境づくり”を模索しておりおりました(婦人科腹腔鏡下手術技術連携グループ)。

そして新百合ヶ丘総合病院・婦人科低侵襲手術センターは、その集大成として2012年8月に開院し、センター統括部長である浅田弘法医師を中心に、2020年6月現在、遂に婦人科腹腔鏡下手術数で日本一を誇る病院になっています。

当クリニックでのマネージメントでは、院長を含む新百合ヶ丘総合病院の医師が主体となり、腹腔鏡下手術を行います。

しかし、開腹術と違う技術が要求されるが故に、手術の際には特有の注意事項が存在し、みなさんがこの手術を選択する際には、その利点のほかに、この手術の持つ注意点を正しく理解していただくことが必要であるといえます。 以下 に開腹手術と比較したこの手術の利点と注意点についてお話しします。

利点

1.拡大される手術視野

開腹手術は肉眼で行う手術であるのに対し、腹腔鏡下手術は、硬性鏡という直径10mm(あるいは5mm)の細長いカメラを臍部(へそ)から腹腔内に挿入し、テレビモニターにその画像を映し出して、そのモニターを見ながら行う手術です。 カメラを,目標とする臓器の近くによせることで、ごく小さな病変をモニター一杯に映し出すことができるので、子宮内膜症や、卵管卵巣周囲の癒着を詳細に観察するのに大変有用です。

また、肉眼ではなかなか観察できない子宮の裏側と直腸の隙間(ダグラス窩と言います。)を、万遍なく観察できます。 開腹手術で見逃していた、小さな病変に対し、有効な治療ができます。

2.腸を圧迫しない

子宮・卵巣といった、骨盤内臓器の手術においては、小腸や大腸、S状結腸、直腸が、子宮・卵巣を覆っており、開腹術では手術視野を確保するため、ガーゼや、開創器(創部を開いたままにする器械)でこれらの腸を上腹部に圧排します。

この際、腸はかなり窮屈な状態となっています。腸は消化に重要な「蠕動(ぜんどう)」という動きをしていますが、手術終了後はこの圧迫により蠕動が麻痺しています。 したがって、術後、普通の食事が食べられるのに、2.3日を要します。

これに対し腹腔鏡下手術の場合は、お腹に約3リットルの炭酸ガスを入れ、手術台を頭側に約20cm傾ける骨盤高位にすることで手術視野を確保します。

この時、腸は自然に上腹部に移動するので、手術中は蠕動が全く妨げられません。 術後早期(手術の翌日)に通常の食事がとれるので術後の回復が早くなります。

3.傷が小さく痛みが少ない

開腹手術はお腹の中に手をいれるための術野の確保が必要で、通常は5~10cm程度の傷をつけます。

この際、起きあがる時に重要な腹筋を開創器によりかなり圧迫するので、手術翌日、傷の痛みと筋肉の痛みでつらい思いをします。

腹腔鏡下手術は、臍部に10mm(あるいは5mm)、臍下約5cmの部分に正中、左右に5mm(一部10mm)の小さな傷で行いますので、腹筋の圧迫はほとんどなく、起きあがる際の痛みも軽度で済みます。

4.早期の退院、早期の社会復帰が可能

術後、早期に通常の食事ができ、かつ運動の制限も少ないので退院期間が短くてすみます。

また、入院というのは、基本的にベッド上の生活を続けますので、身体を支える全身の筋肉が衰えます。入院前と退院後の生活とのギャップは入院期間が長くなるほど大きく、社会復帰により時間がかかることになります。 腹腔鏡下手術の入院期間は通常1週間弱(術後4日目前後に退院)、社会復帰も1週間前後で可能です。

開腹手術は、それぞれこの約倍前後の期間が必要です。

5.美容上好ましい

患者さんは、手術の傷とは一生付き合うことになります。

大きな傷を身体に抱えるのは、精神的にも負い目を感じる方が多く、その点で、できるだけ小さな傷で行う腹腔鏡下手術は、その負担を少しでも軽くすることができると思います。

また、表面の傷はすなわち、“お腹の内側”にも同じ大きさの傷を持つことになり、腹腔内臓器(特に腸)との癒着の問題を抱えることになります。妊娠を望む方にとって“癒着”は妊娠の妨げになる可能性があります。

腹腔鏡下手術手術は開腹手術に比べ、この点でも有利です。

5.美容上好ましい

患者さんは、手術の傷とは一生付き合うことになります。

大きな傷を身体に抱えるのは、精神的にも負い目を感じる方が多く、その点で、できるだけ小さな傷で行う腹腔鏡下手術は、その負担を少しでも軽くすることができると思います。

また、表面の傷はすなわち、“お腹の内側”にも同じ大きさの傷を持つことになり、腹腔内臓器(特に腸)との癒着の問題を抱えることになります。妊娠を望む方にとって“癒着”は妊娠の妨げになる可能性があります。

腹腔鏡下手術手術は開腹手術に比べ、この点でも有利です。

注意点

1.手術時間がやや長くなる場合がある

腹腔鏡下手術は、術野に“手が入らない”、という特殊な環境で行う手術です。したがって、直接手を使えないことで様々なハンディを負います。

例えは、手術中大きな出血が起きたとき、開腹手術であれば指で即座に圧迫するということで素早く対応できますが、手が届かない腹腔鏡下手術では、対応にどうしても迅速さを欠きます。

また、テレビモニター下の手術ということは、三次元を二次元に置き換えて手術を行うことです。これはかなりのトレーニングを要する技術です(Eye-Hand Coordinationと言います)。この点で、開腹手術と同じことを行う上で、多少の時間を要することになります。

しかし現在は、技術認定医全体の技術が向上し、ほとんど開腹術との時間差はなくなってます(あるいはむしろ短縮して手術もあります)が、どんな手術でも、わずかではありますが致命的なことを含めた“何が起こるかわからない”リスクを持っています。(これは開腹術も同様です。)従って手術時間が長くなればなるほど時間に比例したそのリスクが増えることになります。

とくに大きな子宮筋腫や、悪性腫瘍の手術では、開腹術に比し、時間がかかる傾向にあります。

2.特有の合併症がある
  1. 二次元視野の中での手技であることが原因 出血や、縫合不全などが代表的です。これを避けるために、止血や縫合を行う場合などで、開腹手術と同等のことができないと判断された場合に、合併症を避けるため開腹に移行する場合があります。 しかし、これは同時に、上にのべたリスクを回避することにつながり、結果として安全な手術で終わらせるよりよい策をとったことになります。ただし患者さんは開腹移行の事実を、麻酔がさめた後で知らされることになります。
  2. モニター外の出来事が原因 テレビモニター内で行われていることに細心の注意を払っていても、モニター外のところで、思わぬ出血や臓器損傷が起こっていることがあります。執刀する医師はモニター外の出来事まで察知する“目”を持つことが重要です。
  3. 特殊な器械を使うことが原因-熱凝固機器など- “直接手が届かない”手術である特徴から、特殊な手術器具を開腹手術よりも多く使います。とくに、止血のために使う熱凝固機器(火傷をさせることによって血を止める)は重要な存在です。 しかし、止血を優先するあまりに、目的以外の部分にまで火傷を引き起こし、腸の損傷などの重い合併症を引き起こすことがあります。 しかし経験豊富な医師は、これらの合併症の可能性について、開腹手術の何倍も気を遣って手術を行います。
3.安全に行うが故に開腹術に変更になる場合がある

前にも述べましたが、合併症を予防するために開腹術に切り替わる場合が有ります。緊急を要する事態や、これ以上技術的に無理があると判断した場合は、合併症に熟知した医師なら速やかに開腹術に切り替える判断ができます。

4.術後の特有の症状がある

手術終了後、炭酸ガスがどうしても少量腹腔内に残存します。これにより、手術翌日に軽度の腹部膨満感が出ることがあります。

また、炭酸ガスが横隔膜を刺激して“肩凝り”のような肩の症状が出る場合があります。
炭酸ガスは基本的には血液によく吸収されて、肺から排出されるので、術後よく動いて頂くことで通常1.2日でこれらの症状は解消するのが一般的です。また、手術を行うときに使用する操作鉗子は、腹部の5mm、10mmの傷を支点にして動くので、創部周囲に内出血が起こり、術後3週間ぐらい、創周囲の軽度の痛みと変色が持続することがあります。 以上、腹腔鏡下手術の利点と注意点について述べてきました。 特有な合併症は、実際その発生率はかなり低いものです。しかし、少ないながらも色々なケースをクローズアップしてみると、深刻な症例が存在するのも事実です。

現在、腹腔鏡下手術で使用する機器の進歩は著しく、上記合併症はその一層の進歩で確実に克服つつあります。